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考案者:熊谷治巳
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スコティッシュ80シリング ( Scottish 80/- ) 不思議な名前のこのビール、「スコティッシュ」と書いてあるので「スコットランド風」は分かりそうですが、「80シリング」は何でしょう。 「1杯の値段?」イエイエ、違います。 税金の値段です。 いつの世も、酒造りは税金との戦いです。 どこかの国の「発泡酒」と同じように。 この数字は19世紀のある時期の税額で、1バーレルあたりの税額でした。 一番アルコールが弱いものは「60シリング」で、一番強烈なものは「160シリング」でした。 80シリングはその中間に位置していて、別名「イクスポート」と呼ばれていました。 さて、スコットランドと言えば、神秘的な湖やヒースで覆われた丘陵が思い起こされますが、「酒飲み」にとってはやっぱりスコッチウイスキーでしょう。 物の本によりますと、スコットランド北部ではウイスキー造りに適した良質の大麦が出来るようです。 では南部はどうかと申しますと、ビール造りに向いた大麦が出来るのです。 そんなわけで、昔からスコットランドでもビール造りが盛んでした。 ところが問題がありました。 もう一つの重要な材料であるホップが、スコットランドの気候では寒すぎて上手に出来なかったのです。 今でこそホップを使ってビール造りをすることは当たり前のことですが、昔は土地で採れる様々なスパイスやハーブを入れることが一般的でした。 当然スコットランドでも事情は同じでした。 有名なヘザー(ヘザーの一種が「嵐が丘」に出てくるヒース)もビール材料として使われました。 征服者はヘザービールの秘術を手に入れようと拷問までしたほどでした。 今でもヘザービールを造る醸造所があって、エジンバラに行けばお土産屋でもヘザービールが手に入ります。 ホップの話が戻りますが、スコットランドではホップをイングランドなどから輸入するしかなく、やはり高価につきました。 良質の大麦が豊富にとれる一方、ホップは手に入れにくいという事情からスコットランドのビールは「ホップの苦味の利いた」イングランドのビールとは逆に「モルト風味の強い」ビールになりました。 お飲みのビールがあまり苦くないのもそのせいです。 ホップをケチったせいではないのです。 ところで飲んでいてお気づきと思いますが、このビールは少し色が濃いように感じませんか?イングランドの一般的なビターにくらべると「茶褐色」が強いのです。 これは「深煎りした」モルト(ブラックモルト)が入っているからです。 伝統的にスコットランド風エールには深入りの大麦やモルトを入れるようになっています。 一説によりますと、むかし倹約家だったスコットランドのモルト業者が、モルト作りの際に出る不良品の大麦を煎って「ロースト大麦」を作りました。 これをビールに入れるようになってこんな伝統が出来たそうです。 香りはいかがでしょうか?普通はエールのいうと、何らかの果物の香りがするのが多いのではないでしょうか。 このビールはほとんどそのような香りがしないはずです。 寒冷地であるスコットランドでは低い温度醗酵が行われるのが常でした。 果物の香りは高い温度で醗酵させたときに出やすいので、このような低い温度で醗酵させたビールには果実香がないのです。 ラガービールの造り方が大陸から入ってきたときに最初にラガービールを造ったのはスコットランドの醸造業者でした。 それも、このような低温での醗酵に慣れていた地域だったからと考えられています。 前回、お届けしたインディア・ペールエールと比較していただくと、今回のビールとの違いがはっきりしませんか?「英国風」と簡単に言いますが、地域ごとに内容は千差万別です。 ビールの製法の違いは、政治や税制、そして地域性の産物です。 もしかしたら日本風の発泡酒も歴史的ビールになるかもしれません。 《お飲みになる前に》 |